わたしが軽自動車を選ぶ理由。

軽トラがつなぐ家族のきずな
―愛知県新城市「しんしろ軽トラ市 
のんほいルロット」

2023.10.23

 軽自動車の荷台や車室を使い地元産品を販売する「軽トラ市」は全国で開催され、地域活性化、街おこしに役立てられています。本連載では、3回にわたり日本三大軽トラ市に関わる人々を取材していきます。

 愛知県新城(しんしろ)市。静岡県との県境にあり、豊かな山と川に恵まれた緑が美しい地域です。こちらで2009年から商店街の活性化を目的に毎月行われている「しんしろ軽トラ市 のんほいルロット」には、毎回70台ほどの軽トラックや軽バンが並び、2,500人余りのお客さんが訪れます。のんほいは、三河地方の方言で「ねぇねぇ」、ルロットはフランス語で「屋台」の意味。軽トラが大活躍するしんしろ軽トラ市を取材しました。

毎月第4日曜日の新城中央通り商店街は、軽トラックを利用した店舗が並び、買い物を楽しむ人達で賑わう

一度も休まず軽トラ市に出店し続ける理由

 新城市で豊田茶園を経営する豊田吉則さんは、軽トラ市に参加を始めて9年あまり。これまで一度も休まず出店し続けています。軽トラに積んででかけるのは、自分の畑で育て製造まで手掛ける緑茶や和紅茶です。

豊田茶園の豊田吉則さん。お茶の話になると、がぜん熱がこもる

「新城は、愛知のお茶所。豊田茶園の一番人気は、摘み取る前の2週間ほど茶の木を黒色の網(寒冷紗)で覆って育てる“かぶせ茶”です。渋みが少なく甘みが強い茶になり、楽しみに買ってくださる方が多いんです。また、日本茶と同じ葉から作る和紅茶もじわじわと人気が出てきました」と豊田さん。「うちのお茶は無消毒。手間暇はかかりますが、最近はオーガニックなものをお求めの方も多く、喜んでいただいています」。

 軽トラ市の醍醐味は、何と言っても軽トラを挟んで消費者が生産者と直接話しながら買い物ができること。生産者ごとに軽トラの荷台や隣に簡易な店舗を設け、ズラリと自慢の商品を並べます。食べ方や製法、こだわりを対面で伝えることができ、生産者にとってもモチベーションが上がります。豊田さんのもとには、会話しながら買うことを楽しみにしている常連さんも訪れます。

「この前買ったお茶、おいしかったです」とお客さんとの話が弾む

「毎月市外から足を運んでくださっているお客さまもいらっしゃいます。当初はお子さんが小さかったのに、最近では小学校高学年に。お会いするたびに大きくなったなぁと成長がそのまま軽トラ市の歴史と重なっているようで、感慨深いです」。人と人とが出会い、交流が生まれる、その普遍的な喜びが、軽トラ市のいたるところで見られます。

なくてはならない自慢の相棒

 豊田さんはこれまで数台にわたって軽トラを乗り継いできましたが、現在乗っている軽トラは、なかでも自慢の1台。

豊田さん自慢の愛車。特別仕様のタイヤに注目

 「今回初めて、友人の自動車屋さんでインチアップ(ホイールのサイズを大きくしたもの)し、オフロードでもOKなタイヤにカスタムしてもらいました。目線が上がって乗り心地も快適。道具としての存在を超えて、愛着が湧いています」と豊田さん。軽トラ市での仲間からの評判も上々です。

 もちろん軽トラは農作業にも欠かせない存在として、毎日の茶畑での作業でも大活躍しています。「足元が悪いところでも侵入でき、取り回しがしやすく、草刈りの道具や収穫したお茶をたっぷり積み込むことができます。仕事では一番大切な存在ですね。これがないと仕事が立ち行きません」。

 さらに豊田さんは、プライベートでも軽自動車であるスズキのスペーシアを使っています。実は購入前に、車内が狭いのではないか、運転しにくいのではないかとの危惧もありました。「すべて杞憂でした。体が大きな私でも車内空間が広々としていて快適です。普通車も持っていますが、妻の通勤や日常の買い物など普段はもっぱら軽自動車ばかり」とすっかり軽自動車の愛好者です。

軽自動車は家族の一員

 取材に訪れた2023年8月の軽トラ市から、豊田さんは新しい取り組みを始めました。それは“その場で飲むことができるお茶ドリンク”を提供すること。緑茶ラテや緑茶レモンソーダ、ほうじ茶ラテなど、まるで話題のコーヒーショップで飲めるようなメニューを開発したのは、なんと2人の娘さん!茶園プロデュースのお茶ドリンクがおいしくないわけがありません。

その場で丁寧に淹れられたお茶のおいしさを実感

「若い人が自宅でお茶を淹れて飲む機会は、どんどん減っています。手に取りやすいボトル入りのお茶を否定するわけではありませんが、せっかくなので淹れたてのおいしさも体験してほしい。『それなら、その場で飲めるようなものを作ろう!』と考えてくれました」。

 この日、豊田さんのお店には、家族の姿がありました。一丸となって取り組む軽トラ市は、家族の絆を再認識する一日でもあります。「みんなが自分の持ち味を活かして参加できるのがうれしいですね」。まだまだ日差しも強く暑かったこの日、豊田家渾身のお茶ドリンクは、来場者の喉を潤しました。「甘みがあっておいしい」「さっぱりと飲めていいね」など評判も上々。新たなお茶の楽しみを伝える場になりそうです。傍らにはもちろん、豊田さんが「家族の一員」だと大切にする軽トラの姿があります。

豊田ファミリー揃ってパシャリ! みんな軽トラ市を楽しんでいる

軽トラに積んで持ってくる、シンプルだから続いてきた

 晴天に恵まれたこの日、会場では食べ歩きに人気の五平餅や、とれたての新鮮野菜を売るお店、人気のカレーのキッチンカーなどが並びました。のんびり散策しながら、商品の説明を聞き、品定めをし、空腹を満たす様子に、軽トラ市が休日のお出かけ先として、根付いている様子がうかがえます。いまでは月平均で2,500人あまりが訪れるようになった、新城の軽トラ市。運営の森一洋さんに、改めて長年続いている秘密を聞いてみると、「シンプルなところがいいんでしょうね」というお返事。

「しんしろ軽トラ市 のんほいルロット」実行委員の森一洋さん

 「出店は軽自動車の規格ならなんでもOK。軽トラだけでなく、バンや軽乗用車での参加者もいます。自分たちが作っているものを、積んで、運んで、売って、残ったら持って帰る。必要以上の負担を感じることなく参加できます。また「必ず第4日曜日に(雨天でも)開催」というシンプルなルールを徹底しているので、訪れる人にとっても毎月の楽しいイベントとして定着し、リピーターが半分以上。広報の必要なくお客さんが集まってくれます」

「軽トラ市の魅力は、なにより人と人とのふれあいがあることでしょう。ネットで買い物するよりは不便だけど、ここに来ると顔なじみのおじちゃんおばちゃんと話してモノを買うことができます。それは存外いまの時代には贅沢なことなのでしょうね。売る方も買う方も楽しんでいますから、みなさん居心地がいいとおっしゃいます」と森さん。

さらに街も動き出す

 2009年に商店街の活性化を目的として始めた軽トラ市は、14年目を迎えました。日曜日を定休日としている商店街の店舗も、今では約7割が店を開け、軽トラ市の人出を積極的に活用しています。街の豆腐屋さんの惣菜や肉屋さんのコロッケは、毎回行列ができるほどの人気ぶりです。

 そして若い世代との交流も生まれています。愛知大学の研究室とは、軽トラ市を活用した地域活性化のための調査研究が進んでいます。また近くの中学校から、ボランティアスタッフとして運営に関わる生徒が出てきました。みんな軽トラ市に惹かれて集まってきた人たちです。

長野市篠ノ井地区の軽トラ市との相互映像中継

 森さんはこう振り返ります。「始めた当時、この言葉はありませんでしたが、今で言う“サステナブル”なことをやりたいと考えていました。補助金に頼る事業は長続きしない。運営費があまりかからず、参加がしやすく、なるべく多くの人が喜ぶことを考え続け、今の形にたどり着きました。14年続けることによって、いつのまにかいろいろなことができるようになりました。よく全国の商店街から視察にみえるのですが、とにかく始めて続けることですよと伝えています」。
出店者とその家族、訪れる人々、そして運営者。様々な人出会い交流が生まれ発展していく。この軽トラ市を起点に、これからも新城の持続可能なまちづくりは続きます。

しんしろ軽トラ市 のんほいルロット

開催日時/毎月第4日曜 午前9時〜午後12時
会場/新城中央通り商店街・亀姫大通り(愛知県新城市)